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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)447号 判決

上告人 文京信用金庫

右代表者代表理事 染谷盛一

右訴訟代理人弁護士 岩田豊

株式会社文京洋紙店訴訟承継人

破産者株式会社文京洋紙店破産管財人

被上告人 堀合辰夫

右訴訟代理人弁護士 長谷川修

小嶋正己

主文

原判決中上告人の敗訴部分を破棄し、右部分を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人岩田豊の上告理由について。

原審は、原審控訴人が予備的に請求した条件付第三者異議に基づき、原審控訴人が本件各建物につき原審控訴人のための所有権移転の本登記手続を経由したときは本件強制執行を許さない旨の判決をしたものである。

しかしながら、第三者異議の訴のように新たな法律関係の形成を求める訴は、かかる法律関係が現在の事実関係に基づき即時に確定されうる場合にのみ許されるのが原則であり、たとえば本件のように、将来の事実の発生を条件とする、いわば将来の形成の訴は、かかる請求を許容すべき特別な事情の存する場合を除いては、許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和四二年(オ)第六六〇号同四三年一一月一五日第二小法廷判決・民集二二巻一二号二六五九頁、昭和三四年(オ)第九九号同四〇年三月二六日第二小法廷判決・民集一九巻二号五〇八頁参照)。

してみると、本件につき条件付第三者異議を許容すべき特別の事情の存否について審理することなく、かかる請求を認容した原判決には、審理不尽もしくは理由不備の違法があるものというべく、論旨はこの点において理由があるから、原判決中右の部分を破棄し、更に審理を尽くさせるため、右破棄部分を原裁判所に差し戻すべきである。

よって、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 大隅健一郎 藤林益三 岸盛一 岸上康夫)

上告代理人岩田豊の上告理由

原判決は法令の解釈を誤り、判例に違反し、理由不備の違法がある。

一、原判決はその主文において被上告人が仮登記にもとづく本登記をなしたときは、上告人の東京地方裁判所昭和四一年(ヌ)第七三四号の強制執行を許さないとし、その理由として「本件訴訟の経過に照らし、控訴人(被上告人)には予め条件付判決を求める利益があると認められる」と判決した。

二、然し乍ら仮登記は本登記をなすべき実質的又は形式的要件が完備しない場合に、後日なすべき本登記上の順位を確保しておくために、本登記をなすまでの間の権利保全行為として、後日なすべき登記事項又はその請求権の存在をあらかじめ当該不動産の登記簿に仮に登記しておく予備的な登記にほかならないのであるから、仮登記のみの効力としては、本登記と同一の効力を有するものではなく、ただ単に、後日なすべき登記の登記上の順位を保全する効力を有するにとどまり、仮登記した権利関係を第三者に主張し対抗するためには、その本登記をすることが必要で、本登記をしたときから、その権利関係を第三者に主張し対抗することができるものと解するのが相当であり、最高裁判所昭和三二年六月一八日判例も「仮登記は本登記によって始めて生ずる対抗力を遡及せしめる効力があるに止まり、本登記のような対抗力を有するものではない」とし、又最高裁判所昭和三八年一〇月八日判例も「仮登記は本登記の順位を保全する効力があるに止まり、仮登記のままで本登記を経由したのと同一の効力があるとはいえない。したがって本登記手続が終るまでは、上告人は被上告人の右登記の欠缺を主張しうる第三者に該当し、被上告人は上告人に対しその所有権の取得を対抗し得ない筋合である」としている。

三、よって仮登記のままでは被上告人は上告人に対しその所有権の取得をもって対抗できないものであるから、仮令条件付にもせよ仮登記に強制競売不許の効力を認めることは結果的に仮登記に本登記の効力を認めることとなり、法令の解釈を誤るものであるのみならず前項判例に反することとなる。

四、更に原判決のように本登記の経由を条件とする第三者異議の訴を認容することは、給付訴訟と異なり形成訴訟である第三者異議の場合は違法である。

五、以上の理由により原判決は仮登記の効力を誤解し、判例に違反し、理由不備の違法があるので、破棄を免れない。

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